KARUNA TI LA
カルナティーラ
ブログ
手前味噌
『手前味噌で恐縮ですが・・・』という言い回しは、自分で自分を褒める時や自慢するのに使うそうです。
味噌を引き合いに出して控えめを装い、ちゃっかり自分を売り込もうという魂胆。
とはいえ、この言い回しを実際聞いたことは、ほとんどないかもしれない。
慣用句の手前味噌は絶滅危惧種かもしれませんが、真の手前味噌作りはいまがトップシーズンです。
前日から大豆を水に漬けて12時間。
豆が水をやたら吸うので、朝起きた時には水分は消え、水を吸いきって膨らんだ大豆が鍋にひしめき合います。
再度水を足して、差し水しながら6時間くらい煮続ける。
豆が十分に柔らかくなったら、ここからが修行。
豆を潰すという苦行があります。
いつ終えるとも知れぬ重労働。
味噌作りを応援してくれる味噌会社では、豆をミンチする機械をレンタルしてくれる所もあるそうな。
それくらいキツさの点でいえばここがハイライト。
これさえ乗り越えれば手前味噌作りは9割終了。
豆を潰し終わる頃には満身創痍といった感がありますが、ここでついに麹を混ぜ込みます。
豆側が熱すぎると麹が死亡するので、ほんのりヌクヌクとした温度帯を狙わなければいけません。
麴さんは生きていますからね。
麹はあらかじめ塩と混ぜておき、これを「塩切り麹」と呼びます。
麹をどうするか、塩をどうするか、この辺は各家のこだわりポイントでしょう。
私はよく麦麹にするのですが、たまに訪れる気まぐれから今年は玄米麹を採用しました。
麦麴のほうが甘めの味噌になって、玄米麹は濃厚な感じかな。
大豆は北海道産で煮ただけでも美味しいので、茹で上がったらそのままいくつかおやつに失敬します。
アマチュア味噌作り愛好家も年数を経ると、大豆と麹と塩の組み合わせをどうするかというのも、一家言持ちたくなるものです。
豆と麹を混ぜたら、ここからは楽しい時間。
小さいボールくらいに味噌の元を丸めて、ホウロウのバケツみたいな容器の中に思いっきり投げつけていきます。
ハンバーグの生地作りと同じで、投げつける時に余計な空気を抜いています。
ちなみに、潰しきれていない豆がいくつか顔を出していますが、これはいけません。私の仕事がいいかげんという事です。
味噌になった時に豆の形のまま味噌になっています。
無心で味噌ボールを叩きつけること10分弱。
最後に表面をペタペタ綺麗にならして、この上に塩を撒いてから重しをのせて、味噌の元を封印します。
静かに味噌の元は深い眠りにつき、その間に麹がいい仕事をして、秋頃に封印を解いた時には味噌が完成しているのです。
すごい自然の神秘。
「天地返し」という、夏頃に発酵途中の味噌を混ぜる作業もあるのですが、私はやりません。秋までそのまま冬眠。
手前味噌は慣用句が出来るくらい美味しいので、挑戦してみると楽しいと思います。
2日がかりの仕事になりますが、苦行を挟むので達成感もひとしお味わえます。
後で本当の味噌も味わえるし。
現代人はもっとこういうのをやった方が良いと思います。